ヴィパッサナー瞑想

陸の孤島「ダンマバーヌ」

 ミャンマーに旅立つ数ヶ月前の夏。
 ブッダが解脱して悟りを開いたヴィパッサナー瞑想を体験するため、京都北部の山奥にある瞑想センター、ダンマバーヌにやってきた。
 周囲には民家はおろか、人工的な建物が一切なく、陸の孤島といったような雰囲気だ。
 受付でまず荷物を預ける。財布などの貴重品、スマホやカメラなどの電子機器、ペンやノートの持ち込みも禁止で、何かを書き留めることも一切できない。
 センターの1階には食堂と参加者が宿泊する部屋があり、8人部屋の一角が自分のスペースとなった。部屋のメンバーは、日本人、欧米人、アジア系外国人と多様な人種で、年齢層も幅広く、男女は分離されているので同性ばかり。
 これから10日間、一緒に過ごすことになるが、会話だけでなく、視線を合わせる、合図、身体の接触など、あらゆるコミュニケーションが禁じられる。
 その日の夕方、食堂に参加者全員が集まった。男女合わせて50人ほどだ。合宿の参加費用は、食費宿泊費を含め、一切請求されない。ヴィパッサナー瞑想から恩恵を受けた人たちの「他の人たちにもこの機会が与えられるように」という思いによる寄付でまかなわれている。指導に関わる人も物的な報酬は一切受けない。
 ヴィパッサナー瞑想は特定の宗教に属していない。そのため、仏教徒だけでなく、他の宗教を信仰している人でも参加できる。

 スタッフからセンターでの過ごし方や注意事項の説明があり、参加者に案内のしおりが配られる。そこには戒律についての記述があった。

1. いかなる生き物も殺さない。
2. 盗みを働かない。
3. いかなる性行為も行わない。
4. 嘘をつかない。
5. 酒や麻薬、煙草などを摂取しない。


 説明が終わり、食堂から庭に出ると、周囲は闇に包まれていた。周辺に建物がないので星が綺麗に見える。虫たちの声に耳を澄ませながら、俗世間を離れ、別の世界へやってきたことを実感した。
 突然、鐘の音が響く。他者との関わりを断つ、10日間の聖なる沈黙がはじまる。